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大分地方裁判所日田支部 昭和58年(ワ)2号 判決

原告

河野ユリカ

ほか五名

被告

森山光治

ほか二名

主文

一  被告らは各自、原告河野宗博、同穴井早苗、同山下ルリ子、同河野光雲、同河野美代志に対し、各金四四万円及び右各金員に対する昭和五七年三月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告河野ユリカの請求及びその余の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告河野ユリカと被告らとの間に生じた分は原告河野ユリカの負担とし、その余の訴訟費用はこれを二分し、その一を原告河野宗博、同穴井早苗、同山下ルリ子、同河野光雲、同河野美代志らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告河野ユリカに対し金三八五万円、その余の原告らに対し各金七七万円及び右各金員に対する昭和五七年三月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 事故発生日時 昭和五七年三月一一日午前七時四〇分頃

(二) 事故発生場所 日田市清水町一七三八番地立花徳二郎方前

(三) (1) 加害車 普通貨物自動車(大分四四ほ八五八八号車)

運転者 被告瀬戸典吉

保有者 被告十部定

(2) 加害者 普通乗用車(大分五六ち一八三六号車)

運転者 被告森山光治

(四) 被害者 河野幹雄

(五) 事故の態様 亡幹雄が同乗していた前記(1)加害車と(2)の加害車が、前記日時において前記場所の四差路交差点で出合頭に激突し、亡幹雄は(1)加害車より一二メートルほど放り出され、内臓破裂により死亡した。

2  被告らの責任

本件事故は、加害車(1)、(2)の運転者である被告瀬戸、同森山の過失により発生したものである。すなわち、本件事故現場の四差路交差点は、信号機のない交差点であるから、この交差点に進入するに際しては、左右の安全を確認して進入すべき注意義務があるのに、被告瀬戸、同森山の両名はいずれもこれを怠つたため、本件事故が発生した。

そこで、被告瀬戸、同森山については民法七〇九条により、被告十部については自動車損害賠償保証法三条により、それぞれ本件事故により発生した損害について賠償する義務がある。

3  原告らの地位

原告ユリカは、本件事故で死亡した亡幹雄の妻であり、その余の原告らは、いずれも同人の実子である。

4  原告らの損害

(一) 逸失利益等

亡幹雄の逸失利益、治療費、文書料等の損害は合計金一三四二万円であり、原告らの支出した葬儀費は金七〇万円であるが、右損害はいずれも自賠責保険により全額填補された。

(二) 慰藉料

亡幹雄は、死亡時原告ら一家の主柱であつたので、その慰藉料は金一六〇〇万円が相当であるところ、原告らは、内金九〇〇万円を自賠責保険により受領しているので、不足分は金七〇〇万円である。そこで、原告ユリカについては慰藉料金三五〇万円、その余の原告らについては慰藉料各金七〇万円が未払となつている。

(三) 弁護士費用

本件訴訟につき被告らに負担させることのできる弁護士費用は、その請求額の一割にあたる金七〇万円が相当である。そこで、原告ユリカについては金三五万円、その余の原告らについては各金七万円が被告らの負担すべき弁護士費用である。

5  結論

以上により、原告ユリカは、本件事故による損害の未払慰藉料金三五〇万円と弁護士費用金三五万円の合計金三八五万円を、その余の原告らは、同じく未払慰藉料金七〇万円と弁護士費用金七万円の合計各金七七万円及び右各金員に対する遅滞に陥つていることの明らかな本件事故日である昭和五七年三月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を被告ら各自に求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項(一)、(二)、(三)、(四)の各事実は認める。同(五)の事実中、亡幹雄が(1)の加害車より一二メートルほど放り出されたという事実は否認するが、その余の事実は認める。

2  同2項、3項の各事実は認める。

3  同4項の各事実は争う。

三  被告らの主張並びに抗弁

1  本件事故当時の亡幹雄の家族は、妻ユリカ、三男美代志(昭和三三年二月三日生)の三人で、他の子はすべて家を出て独立の生計を営んでいる。又亡幹雄は、五、六反の田畑を所有し、妻及び三男と農業を営むかたわら、農閑期には土木作業員として働き、三男美代志は、建築大工で、農繁期に農業を手伝つていたものであるから、慰藉料の算定について、亡幹雄を一家の主柱とすることはできない。

2  亡幹雄の逸失利益は金五七八万七七七七円である。すなわち、亡幹雄の昭和五五年九月から昭和五七年一月までの土木作業員としての月額収入は、金三万八六八八円で、その農業所得は、年額約一〇〇万円と推定されるので、死亡当時の亡幹雄の月額収入は約金一二万二〇〇〇円となる。そこで、生活費控除を四〇パーセントとし、これに新ホフマン係数六・五八九(就労可能年数八年)を乗ずると逸失利益は金五七八万七七七七円となる。しかるに、自賠責保険認定の逸失利益は金一三四二万円で、現実の逸失利益よりも約七六〇万円多いので、右金七六〇万円は慰藉料に該当しているものというべきである。そうすれば、原告らに対する慰藉料は、自賠責保険により十分に賄われている。

3  原告ユリカは、昭和五七年九月二二日遺族補償一時金として金三〇〇万円の給付を受けている。

4  亡幹雄は、被告瀬戸運転車の好意同乗者であるから、被告瀬戸、同十部に対しては、慰藉料は三割程度減額さるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  右3項の事実は認める。

2  右4項の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1項(ただし、亡幹雄が被告瀬戸の車から一二メートル程度放り出されたとの点を除く。原告ユリカ本人尋問の結果によれば、亡幹雄は被告瀬戸の車両内で死亡した事実が認められる。)、2、3項の各事実は、当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、被告瀬戸、同森山は民法七〇九条により、被告十部は自動車損害賠償保障法三条により、それぞれ本件事故により発生した損害について賠償すべき責任がある。

二  そこで、損害額について検討する。

1  亡幹雄の逸失利益

成立に争いのない乙第一、二号証、被告十部本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第四号証、原告ユリカ、被告十部各本人尋問の結果を総合すれば、亡幹雄は、事故当時満五九歳で、特別の病歴もなく健康な男子であつたこと、又田六反五畝、畑一反、山林約一町歩を所有し、妻である原告ユリカ、三男である原告美代志と共に農業や椎茸栽培、山林業に従事していたが、妻は病弱で、三男美代志は独身で型枠大工として稼働していたこともあつて、亡幹雄が農業や椎茸栽培等の主宰者と認められること、そして産米の約三分の二位を供出し、椎茸栽培では年間約二八〇万円位の収入を得ていたこと、又亡幹雄は、昭和五五年九月頃からは農閑期には被告十部方に土木作業員として稼働し、本件事故当時頃まで年額約四六万四〇〇〇円余の収入を得ていたこと、原告ユリカ、同美代志を除くその余の原告らは既に家を出、独立して生計を営んでいたことなどの事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、亡幹雄の死亡当時の現実の年収額は必ずしも明らかではないが、亡幹雄は、少くとも年齢別平均給与月額の金二六万一一〇〇円(自賠責保険損害査定要綱別表Ⅲの五九歳の平均月額、昭和五四年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額を一・〇六七四倍したもの。)の収入を得られる蓋然性は十分にあつたものと認められる。そうとすれば、亡幹雄の収入は月額金二六万一一〇〇円と認めるのが相当であるから、同人は五九歳から六七歳まで八年間右同額の収入を得ることができたであろうと推認でき、これを基礎として右期間内の生活費を収入の三割五分とし、中間利息の控除につき新ホフマン式計算法(係数六・五八八六)を用いて死亡時における亡幹雄の逸失利益の現価額を算定すれば、左記のとおり金一三四二万円(万以下四捨五入)となる。

261,100円×12×(1-0.35)×6.5886=13,418,210円

2  その他の積極損害

成立に争いのない甲第一、二号証、原告ユリカ本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らは、本件事故による治療費金一六万四五八〇円、文書料金一六〇〇円、合計金一六万六一八〇円の債務を負担し、葬儀費用金七〇万円を支出した事実が認められる。

3  損害の填補

前項掲記の各証拠によれば、昭和五七年八月一八日自賠責保険より病院に治療費、文書料として金一六万六一八〇円が支払われ、原告らには亡幹雄の逸失利益金一三四二万円、葬儀費用金七〇万円が支払われた事実が認められるので、亡幹雄の逸失利益や葬儀費用等は自賠責保険により全額填補されたこととなる。

4  慰藉料

前記1項認定の事実によれば、亡幹雄は一応一家の主柱であつたものと認められるが、その年齢、家族の状況その他本件口頭弁論に顕われた一切の事情を斟酌すれば、原告らの慰藉料は総額金一三〇〇万円と認めるのが相当である。

ところで、甲第一、二号証によれば、慰藉料として合計金九〇〇万円が自賠責保険により填補されている事実が認められるので、原告らに対する慰藉料の残額は金四〇〇万円となる。よつて、亡幹雄の妻である原告ユリカに対する慰藉料はうち金二〇〇万円、その子であるその余の原告らに対する慰藉料は各金四〇万円とするのが相当である。

5  被告らの抗弁について

(一)  原告ユリカが、昭和五七年九月二二日遺族補償一時金として金三〇〇万円の給付を受けていることは当時者間に争いがないので、右金三〇〇万円は原告ユリカの請求し得べき前項の金二〇〇万円から控除すべきである。そうすると、原告ユリカは、その損害の総てを既に填補されていることとなる。

(二)  被告らは、亡幹雄は被告瀬戸車の好意同乗者であるから、被告瀬戸、その使用人である同十部に対しては慰藉料は減額さるべき旨主張するので検討するに、成立に争いのない乙第三号証、被告十部本人尋問の結果によれば、亡幹雄と被告瀬戸は共に被告十部方の土木人夫として稼働していたこと、被告瀬戸は、使用人である被告十部の指示により、業務としてその保有車両を運転し、毎日人夫を工事現場まで送迎していたこと、本件事故当日もその送迎の途中であつたことなどの事実が認められる。右事実によれば、亡幹雄の被告瀬戸運転車への同乗は単なる同乗であつて、好意性、無償性を問題にする余地は全くないので、被告らの抗弁は理由がない。

6  弁護士費用

原告らが、本件訴訟を追行するため代理人を選任していることは記録上明らかであり、本件事案の難易度、審理の経過及び右認定額等諸般の事情を考慮すれば、原告宗博、同早苗、同ルリ子、同光雲、同美代志に対し、それぞれ金四万円合計金二〇万円をもつて本件事故と相当因果関係ある弁護士費用と認めるのが相当である。

三  以上の次第であるから、原告ユリカの本訴請求は理由がないからこれを棄却し、その余の原告ら五名が、被告ら各自に対し、各金四四万円及び右各金員に対する本件事故の日である昭和五七年三月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤高正昭)

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